ネイピア数(自然対数の底)ってなに
ネイピア数(自然対数の底)とは何か。
ネイピア数とは
ネイピア数とは\(e=2.718281828…\)という値の数学定数です。 別名では自然対数の底やオイラー数とも呼ばれます。
定義の仕方はいくつかありますが、例えば次のように定義できます。
$$e = \lim_{n \to \infty} ( {1 + \frac{1}{n}} )^n$$
ネイピア数は、数学、統計学、物理学等のいろんな所で登場する重要な数値です。
ネイピア数と確率
ネイピア数はどんな所に登場するのでしょうか。
ここでは1本だけが当たりのくじを引く場合の確率について考えます。 くじは一度引いたら戻すものとしておきます。
ここでの結果はちょっと意外です。
例えば5%の確率であたるくじを20回引いても、1%確率で当たるくじを100回引いても、当たらない確率が35%以上あるということがわかります。
始めにくじ全体の本数が3本で1本だけが当たりのくじを考えます。 この場合当たりのくじを引く確率は\(\frac{1}{3}\)、外れのくじを引く確率は\(1 - \frac{1}{3} = \frac{2}{3}\)です。 なので、くじを3回引いた時に1本も当たらない確率は次で計算できます。
$$ ( 1 - \frac{1}{3} )^3 $$
同様に、全体が4本で1本だけが当たりのくじを、4回引いた時に1本も当たらない確率も計算できます。
$$ ( 1 - \frac{1}{4} )^4 $$
これを一般化すると全体がn本で1本だけが当たりのくじを、n回引いた時に1本も当たらない確率は次の通りとなります。
$$ ( 1 - \frac{1}{n} )^n $$
ここで\(n\)が大きくなった場合を考えます。 \( m= n-1 \)と置き換えると、\( n \to \infty \)の時\( m \to \infty \)なので
$$ \begin{aligned} \lim_{n \to \infty} ( {1 - \frac{1}{n}} )^n & = \lim_{m \to \infty} ( 1 - \frac{1}{m+1} )^{m+1} \\\\ & = \lim_{m \to \infty} ( \frac{m+1 - 1}{m+1})^{m+1} \\\\ & = \lim_{m \to \infty} ( \frac{m}{m+1})^{m+1} \\\\ & = \lim_{m \to \infty} ( \frac{1}{1+\frac{1}{m}} )^{m+1} \\\\ & = \lim_{m \to \infty} \frac{1}{(1+\frac{1}{m})^{m+1}} \\\\ & = \lim_{m \to \infty} \Big(\frac{1}{(1+\frac{1}{m})^{m}} \times \frac{1}{(1+\frac{1}{m})}\Big) \\\\ & = \frac{1}{e} \times \frac{1}{1} \\\\ & = \frac{1}{e} \\\\ & \fallingdotseq 0.36787944 \end{aligned} $$ネイピア数の逆数が登場しました。 つまり、全体がn本で1本だけが当たりのくじを、n回引いた時に1本も当たりがでない確率はnが十分大きいとして
$$ \frac{1}{e} \fallingdotseq 0.36787944 \fallingdotseq 36.7\% $$
となります。\(n\)が大きいとして計算しましたが、 \( ( 1 - \frac{1}{n} )^n \)の実際の値は、n=20の時に0.35848592で誤差1%未満、 n=100の時に0.366032341で誤差0.2%未満となるので、計算上は上の値を近似値として使っても良さそうです。 以降\( ( 1 - \frac{1}{n} )^n \)の値として、\( \frac{1}{e} \fallingdotseq 0.36787944 \) を使用して話をすすめます。
ここまでで、n本中1本だけが当たりのくじをn回引いた時に当たらない確率はおよそ36%だとわかりました。
では何本ぐらい引けばくじが当たりそうと言えるのでしょうか、
くじを引く回数をn回ではなくa回としてみます。
aの大きさをnのm倍としてどれぐらいであれば良いかを見積もります。
$$ a = mn $$
くじはa回引くので当たりがでない確率は次のように計算されます。
$$ \begin{aligned} ( 1 - \frac{1}{n} )^a & = ( 1 - \frac{1}{n} )^{mn} \\ & = (( 1 - \frac{1}{n} )^{n})^{m} \\ & \fallingdotseq ( \frac{1}{e})^m \\ & \fallingdotseq 0.36787944^m \end{aligned} $$
この値が0.10,0.05,0.01,0.001となる時のmを求めます。 「くじが1つ以上当たる確率 = 1 - くじが1つも当たらない確率」なのでまとめると下の表のようになります。
くじが1つも当たらない確率 (\(\frac{1}{e^m} , 0.36787944^m\)) | くじが1つ以上当たる確率 | m |
---|---|---|
0.100 | 0.900 | 2.3025 |
0.050 | 0.950 | 2.9957 |
0.010 | 0.990 | 4.6051 |
0.001 | 0.999 | 6.9077 |
つまり、90%の確率でくじが当たるためにはくじ全体の本数の2.3倍程度の回数だけくじを引く必要があるということになります。 同様に、95%の確率でくじが当たるためにはくじ全体の本数の2.9倍、 99%の確率でくじが当たるためにはくじ全体の本数の4.6倍、 99.9%の確率でくじが当たるためにはくじ全体の本数の6.9倍ぐらいの回数くじを引く必要があります。
具体的にいいかえると、1%の確率で当たるくじを繰り返し引いた時、90%の確率で当たるというためには230本以上の回数くじを引く必要があるという事になります。99%の確率でくじが当たるというためには、460回以上が必要です。200回くじを引いても10%以上は当たらないという計算です。ガチャがなかなか当たらないわけですね。
ネイピア数と利率(増減の割合)
利率、変化の割合を考える場合にもネイピア数は登場します。
ここでは預金したお金が金利でどう増えていくかを考えてみましょう。
100万円を年利0.5パーセントで預金したとします。
利息が年に1回なら金利がついた後の1年後の預金金額は以下となりますね。
$$ 1000000 + 1000000 \times 0.005 = 1000000 \times (1 + 0.005) $$
半年複利なら金利のつく期間が半分となり、かつ、金利が2回支払われるので次のようになります。
$$ 1000000 \times (1 + \frac{0.005}{2}) ^ 2 $$
同様に月単位の金利なら12回に分けられるので次のように計算できます。
$$ 1000000 \times (1 + \frac{0.005}{12}) ^ {12} $$
毎日利息が払われるなら
$$ 1000000 \times (1 + \frac{0.005}{365}) ^ {365} $$
となります。一般に金額a、年利pでn回に分割して金利が支払われた場合の預金金額は次のようになります。
$$ a \times (1 + \frac{p}{n}) ^ {n} $$
ここで\(n\)が大きくなった場合を考えます。
つまり、年⇒半年⇒月⇒日⇒秒⇒瞬間のように、
どんどん金利のつく期間が短くなるとどうなるのかということを考えます。
$$\lim_{n \to \infty} a ( {1 + \frac{p}{n}} )^n$$
\( m= n/p \)と置き換えると、\( n \to \infty \)の時\( m \to \infty \)なので
$$ \begin{aligned} \lim_{n \to \infty} a ( {1 + \frac{p}{n}} )^n & = \lim_{m \to \infty} a ( {1 + \frac{1}{m}} )^{mp} \\\\ & = a (\lim_{m \to \infty} ( {1 + \frac{1}{m}} )^m)^p \\\\ & = ae^p \end{aligned} $$また、ネイピア数がでてきました。
元の金額aにネイピア数のp乗をかけた値が、金利が瞬間瞬間でついた場合の一年後の金額になるという結果です。
具体的に金額a=100万円、p=0.005で計算すると $$ 1000000 \times e ^ {0.005} \fallingdotseq 1000000 \times 2.71828 ^ {0.005} \fallingdotseq 1005012.5 $$
金利が1年に1回発生する場合、金利の額面は5000円ですが、 瞬間瞬間で金利が発生する場合その分複利が効いて約5012円となるんですね。
銀行の預金だと元々支払われる金額の間隔が空いてしまうので、何のためにこんな事をしているのかとも感じられます。 しかし、これがもっと別の金融資産で配当が頻繁に発生するようなものだとしたらどうでしょうか。 あるいは、動物や細菌、ウィルス等が一定の割合で変化するといった状況を考えているとしたらどうでしょうか。
このようになめらかに連続した変化として考えた複利の計算は連続複利(continuous compound interest)と呼ばれます。 連続した変数として計算がしやすくなるといったメリットがあります。
ここまでの話では1年間での金利を考えていましたが、期間t年経過後の金額はどうなるでしょうか。 1年間での金額は
$$ a \times (1 + \frac{p}{n}) ^ {n} $$
と増えるので、これをt回繰り返すとして、t年では
$$ a \times (1 + \frac{p}{n}) ^ {nt} $$
となります。nが十分大きいとすると以下金額が得られます。
$$ ae^{pt} $$
元の金額はaですが、これがb倍つまりabになるまでの期間tを考えてみます。
$$ ae^{pt} = ab $$
計算すると次のようになります。
$$ \begin{aligned} ae^{pt} = ab & \iff e^{pt} = b \\\\ & \iff pt = \log_{e}b \\\\ & \iff t = \frac{\log_{e}b}{p} \end{aligned} $$\(b=2\)とすると\(\log_{e}2 = 0.693147180\)から
$$ t = \frac{\log_{e}2}{p} = \frac{0.693147180}{p} \fallingdotseq \frac{69.3}{100p} $$
つまり金額が倍になるまでの期間は69.3を利率で割って計算できるという事になります。 利率が3%の場合、69.3を3で割ると23.1年となるので、23年以上経過すると金額がおよそ倍になると計算できます。
69.3を割り切りやすい70や72としたものがいわゆる72の法則と呼ばれるものになります。 人口増加率が2%の国があるとすると、72/2=36年でおよそ倍になるといった具合です。
数学の微分・積分との関係
指数関数とその微分を考えましょう。aを正の数として以下で関数を定義します。
$$ f(x) = a^x $$
微分します。
$$ \begin{aligned} f^{\prime}(x) & = \lim_{\varDelta x \to 0}\frac{a^{x+\varDelta x} - a^x}{\varDelta x} \\\\ & = a^{x}\lim_{\varDelta x \to 0}\frac{a^{\varDelta x} - 1}{\varDelta x} \end{aligned} $$ここで\( t = \frac{1}{a^{\varDelta x}-1} \)とすると、\(\varDelta x \to +0 \)の時、\(t \to \infty \)となります。 \( \varDelta x = log_{a}{(1+\frac{1}{t})} \)と変形できるので
$$ \begin{aligned} \lim_{\varDelta x \to +0}\frac{a^{\varDelta x} - 1}{\varDelta x} & = \lim_{t \to \infty}\frac{1}{t \log_{a}{(1+\frac{1}{t})}} \\\\ & = \lim_{t \to \infty}\frac{1}{\log_{a}{(1+\frac{1}{t})^{t}}} \\\\ & = \frac{1}{\log_{a}{\displaystyle \lim_{t \to \infty}(1+\frac{1}{t})^{t}}} \\\\ & = \frac{1}{\log_{a}{e}} \\\\ & = \log_{e}{a} \end{aligned} $$同様に\( t = \frac{1}{1-a^{\varDelta x}} \)とすると、\(\varDelta x \to -0 \)の時、\(t \to \infty \)となって、 同様の式が導けます。
$$\lim_{\varDelta x \to -0}\frac{a^{\varDelta x} - 1}{\varDelta x} = \log_{e}{a}$$この結果から、微分は以下のように計算できます。
$$f^{\prime}(x) = a^{x} \times \log_{e}{a}$$
指数関数の微分を考えるとネイピア数が底の対数が登場しました。 特に\( a = e \)とすると\( \log_{e}{a} = \log_{e}{e} = 1 \)となるので、
$$f(x) = e^{x}$$
$$f^{\prime}(x) = e^{x}$$
となります。逆にこちらからネイピア数を定義する流儀もあります。
微分が自身となるような関数を考えた場合、ネイピア数が出てくるということですね。